フィクションです

残暑

 

高校2年の夏を未だに引きずっている

 

少しずつ苦しくなっていった学校生活、逃げるように自室に閉じこもり、必ず行かなければいけない夏季補習は1日も行かなかった

学校をサボっているため親とも気まずく、話せばすぐ喧嘩になって殴られて黙らされる

そういう夏だった

24℃の冷房が効いた子供部屋と窓から差さる日の強さ、セミの鳴き声のコントラストが強くて眩しくて、置いていかれる夏 静かにボロボロになる自尊心に気付かないフリをしていた

 

親とは気まずいままだが、入院している祖母のお見舞いに行けと強制的に外に連れ出されていた

祖母はもう10年近く病院や介護施設を転々としていて、元々小さく華奢だったが、それが更に痩せ細って骸骨のようになり、ボケてまともに会話もできず、爪は伸び放題で、自力ではまっすぐ歩けない そんな状態なのに、それでも家族に会うとニコニコ笑うそんな祖母と顔を合わせたくなかった

わたしはおばあちゃんのことが大好きだったし、おばあちゃんもきっとわたしのことが大好きだったと思う

だから余計そんな祖母を見ると辛くて胸が苦しくなって泣きそうになっていた

帰り際に「学校頑張ってね」と言う祖母に胸を張って返事ができない自分が本当に嫌だった

お見舞いといっても、少しだけ顔を合わせたら逃げるように車に戻っていた

 

そしてその夏の終わりにおばあちゃんは死んだ

 

祖母の葬式で久しぶりに着る高校の制服はとてもキツく動きにくく感じた

空気の悪い親族間で形式的な通夜と葬式を済ませ、祖母は骨と灰なった

 

夏の終わりが来るたびにこのことを思い出す

もっとちゃんと向き合えばよかった、おばあちゃんにも自分にも わたしは逃げてばっかりだったし逃げた先には悔いしかなかった

1人が寂しくて辛くて眠れない夜は、「手を繋いで寝よう」と言ってくれたおばあちゃんのこと、あの冷たくて骨張ったか細い手が幼少期のわたしの小さな温かい手を握って毎日一緒に寝ていたことを思い出して少し泣く

おばあちゃんもきっと寂しかったのだろう、その手をもう握れないことを思い起こしてわたしも寂しくなる 

 

今年もまた夏が終わる

 

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