フィクションです

いつか来てしまうお別れに

 

 

実家の愛犬が亡くなって半年が経った

 

家に帰ったら、尻尾を振って出迎えてくれることが当たり前だったから、玄関を開けてカタカタカタと木製フローリングと少し伸びた爪が当たって響く、近づいてくるあの音が聞こえないことが寂しい

 

かなりおバカな犬で変なところだけズル賢いそういうところが好きだった

トイレを覚えるのも遅かったし、芸は何一つできなかった だけど肉の匂いには敏感で、人間が食べるものを欲しがって、うまいこと引っ張り出して隠れて食べて怒られて、白々しい顔をするのが得意な犬だった

 

わたしが小学生の頃は近所の子達と一緒に田んぼのあぜ道を駆け回ったりしたね、その田んぼも更地になって家が建って、もうあの頃の姿は残ってない

 

犬用の小さいベッドにはかろうじてまだ匂いが残っていて、ああ長いことここにいたんだって実感が静かに頬を伝う

リビングの窓から見える花壇に埋葬して、そこには紫陽花の苗を植えている まだまだ小さい苗だけど咲く頃にはきっと、その匂いも消えているのだろう

 

時間は進む ただ進む それに抗うことなく流れるようにその事実を受け入れるだけだ

 

綺麗な紫陽花が咲く頃に、わたしは一体何を感じているのだろう

変わらないのは、愛犬に会いたいということで、それはきっとずっとだろう

 

 

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