フィクションです

春売りのヴィーナス

 

売春なんて言葉を考えついた人はとても美しくて残酷だと思う

 

わたしは風俗という仕事が大嫌いで大嫌いで、大好きだった

色んな、本当に色んな地獄を見てきたけど、それはとても艶やかな地獄だった

 

あまり日本の性産業の歴史について詳しくはないけれど、遊郭があり国自体が売春という行為を認めていて、それが形を変えつつ今もなお続いているということ

それはきっと日本人男性のDNAに刻まれていて、それ相応のお金を払って女性が承諾さえすれば、男性にとって女性はモノ同然になる 

でもそれでいい ギブアンドテイクだ

こちら側もそんなプライドはとっくに捨てている

腹を括ってマンコ売りをしている

だから今さらモノ扱いされるのなんてどうだっていい

ただ、お金を払った瞬間に格下の烙印を押されるあの目は何度味わっても慣れない 慣れたくはない

 

例えばいわれもない中傷を浴びせられたり、殴られたり、偽札を渡されたり、痛いと言ってもやめてくれなかったり、無理矢理中に出されたり、そんなことは往々にしてある

そういうことをされると、それなりに傷つきはする でもそれも腹を括っている 対価に対する代償だと思わなければいけない

 

風俗嬢の目の奥はみんな死んでいる 作り笑顔だけが上手になっていく その表情のアンバランスさはまさにダッチワイフだ わたしも仕事中はきっとそうなのだろう

 

でもこんなになってでも、この仕事を嫌いになれない自分がいる

 

性欲だけを満たしにくる人もいれば、その先の報われなさや寂しさを埋めようとしてくる人もいる

肌と肌の触れ合いが無くなれば無くなるほど、人は人では無くなると思っている

人であり続けるために、きっとここにたどり着いて来たんだろう そういう人がかなりいる

初めましてなのにすぐに裸で抱き合う その一時を過ごしただけで、自分の全てを理解してくれるような気になって、苦しい思いを吐露してくる男の人たちをたくさん見てきた

 

わたしは、あなたの顔と声と偽名と性感帯しか知らないけれど、静かに頷いて話を聞いてあげる

その時間がすごく好きだった

 

何も知らない人だからこそこんな話ができるのだろう、そう思ったら精子と一緒にその心の奥に溜まったドロッとしたものも吐き出しちゃいなよと思っていた

 

 

60分、店と折半して女の子の手取りは15000円

 

そうして手に入れたお金はいつも瞬いて消えてゆくけれど、何も残らないからこそ美しいと思う

こんな形で稼いだお金はさっさと塵となって仕舞えばいい どの年も春はいつだって一瞬で過ぎ去ってしまうのだから

 

そんなこんなでわたしには、もう売れる春なんて残ってないけれど、それでもまだこの地獄に縋っていたいと思うのです

この地獄の中でならわたしみたいな女でもヴィーナスになれるから

 

 

f:id:snowdrop_01:20250813005718j:image

 

 

 

あまりにも酒鬱

 

いまは少し酔いが覚めているが、まだ全然身体の細部に酒が残っている感覚があって気持ちが悪い

 

映画デート♪だと思って楽しみにしていた約束はブッチされ、それを自虐ネタにしたらカスみたいな反応が大量に飛んできて、まあいいやと切り替えて、友達と楽しい時間を過ごして気分良く帰っていたら、ホームレスみたいなジジイにセクハラされ、セクキャバでは客にグチグチ文句を言われ、お酒弱いくせに頑張ってシャンパンを飲み続けて、朦朧とした意識のなか帰宅

 

全部男、男、男 こちらの善意を搾取するのは全部男でカス、死ねばいいのにと思う

 

思えばずっとそうだった 幼少期に受けた性的虐待も、父親からの暴力も、付き合ってきた男たちの女癖の悪さも、ネットで知り合ったジジイたちの不誠実さも、金を払えば何しても許してもらえると勘違いしているチンカス以下のゴミも

 

わたしがバカ女なのは百も承知だけども、あまりの報われなさに泣いてしまう

 

ずっと幸せになりたいだけなのに、幸せってなんだっけ あー死にたいなと思いながら愛猫をぎゅっと抱きしめたら小さな声でニャーと鳴いた またそれでわたしも泣いた

 

気の強さとプライドの高さだけでどうにかこうにか生きているけど、本当はもうずっと前から死にたい

愛着障害のカスだからいくら男を憎んでも憎んでも憎んでも、目に見える形の愛を示してくれる人にコロッと落ちて、何度も痛い目を見ている 結局男でしか埋められない自分の女としてのしょうもなさに絶望している それの繰り返し

 

「報われてほしい」「幸せになってほしい」と友達は言うけれど、今まで蓄積された傷の数だけ作り笑いが得意になって、最初から不純な生き方しかできないわたしとあなたとじゃ全然違うよって思いながら、「本当だよねー」とまた笑っている

 

二日酔いで頭が痛い 幸せになりてーと思いながら迎え酒 あーもうほんときっついな

 

 

f:id:snowdrop_01:20250617064205j:image

 

 

果てまで続く

 

またこの地獄だ 死にたいと死ねばいいのにが頭の中を無限ループして気持ち悪い

 

今日の客は最悪だった この世で1番憎くて嫌いなヤツに顔がそっくりで、トラウマがフラッシュバックして発作を起こすかと思った

 

顔も声も似ていて気持ち悪かったから、気を紛らわすために、感じているフリをして、そのジジイの顔を見ないように目をギュッと固く閉じていた

でもそうすればするほど「こっちを向いて」と言うから「もう死ねよ」と思いながら、知らねえジジイを抱きしめて、抱きしめたその背中を大きく指で『しね』となぞった そしたら「それ気持ちいい」って言うから、たくさん『しね』って書いてあげた 馬鹿だなと思った

 

このジジイになんの罪もないのはわかっている

わかっているけど果てしない地獄に思えた150分だった

でもそうは言いながらも貰った金額分の仕事を淡々とこなす自分の健気さに嫌気がさした

口の中の精液を洗い流すときに見た鏡の中の自分の顔が、貼り付けたかのような作り笑顔でおぞましかった

 

 

 

これが何歳の記憶かもわからない

それのいる寝室のドアを開けるのが怖かった でも行きたくないって言えなかった 大きな乾燥した手でなぞられるあの感覚が気持ち悪かった 全てを覚えてるわけじゃないけど、嫌悪感だけは身体にしっかりと染み付いていて、そいつがしていたことがなんだったのか物心がついてわかったときに「ああ早く死ねばいいのに」と心の底から思った そしてそれは今でも祈っている

呪いではない 祈り かけられた呪いをかき消すための祈り

 

 

それでも死ねばいいのにと思いながら過ごす毎日は疲れる

死ねばいいのにと思いながら笑顔で挨拶する 死ねばいいのにと思いながらご飯を美味しく食べる 死ねばいいのにと思いながら自分の方が死んだほうがいいのにって思うようになる

 

そうして自分が自分じゃなくなる感覚に陥る

俯瞰で見た自分は愚かだった 性的に搾取されることを嫌悪しながらも、性的に求められることでしか自分の存在価値を確かめられなかった

 

生まれてきたこと自体がコンプレックスだ

ちゃんと真っ当な愛を受けたかった

 

もう一生こんなことで苦しむならもっと早くに死んでおくんだった つらいな 瘡蓋を剥がして熟した傷に優しく絆創膏を貼って欲しい そういう愛をずっとずっと求めている

 

わたしなんかが口癖のわたしなんかをってめんどくさいね、ほんと 我慢しても報われないことばかりだよ それでもいつかはって願ってしまうよ どうしようもないよ

 

そしてこのまま泣き疲れてメイクを落とさずに寝る、そして朝になって浮腫んだ目と荒れた肌に絶望して、きっとまた死にたくなる

それが一番憂鬱で最悪

 

 

 

口約束じゃなくて

 

「明日結婚しよう」

わたしがずっと求めている言葉ってこれだな

 

無責任と責任が共存した無茶苦茶さでわたしを一生抱きしめてほしい 言葉と行動で可能な限りの永遠を提示して欲しい

 

あー愛されたいし愛したいな 中々厳しいな

 

 

いまだけ寂しいだけ、

 

恋愛脳のバカ女だって罵られてもいいよ

好きな男の言動一つで情緒も生活も全部がぐちゃぐちゃになる でもこれがわたしに残された唯一の純情だから

 

同棲を始めた日のことを思い出した

飼い始めた子猫と彼が初対面したあの日

おそるおそる近づく子猫を見つめる彼の目がすごく優しくて、彼と一緒に生活していくことの不安が一瞬で消し飛んだ この人が好きだなあと思った

 

本当に未練はない

未練はないけど、こういうことばかりふと思い出す

 

別れてもうすぐ1年が経つ

あのときの胸の温かみがまだ忘れられないだけ

 

そう、本当にそれだけだから だから、さよなら

きっと多分好きだった

 

これから少しずつ思い出も思いも消えていくことがいまだけ寂しいだけ、

 

 

ひどく疲れている

 

エアコンの暖房をつけていると頭がぼうっとして気持ち悪くなる だから好きじゃない

 

ひどく疲れている

毎日毎日毎日仕事で昼も夜も働いている

 

お金も環境も時間も心もすべてに余裕がない

寂しくて気が狂いそうだ いやもう狂っている

 

誰かと一から真摯に向き合って関係性を作る気力もないから、手頃な愛に唾をつけている

 

わたしはずっと変わらないのに、変わっていくことばかりで、置いていかれたまま今日もこのシングルベッドから動くことが出来ない

 

あ〜あ、大好きだった友人に投げかけられた言葉がショックで、でもショックだと言えなかった

 

会いに行くのに3万近くかかるのに、あなたは一歩も家から出なかった 「ごめんね」って言うあなたに対してわたしは「いいよ〜気にしないで」と言った

 

全部別に全然いい、本当に全然いいけど、わたしのこの虚しさと寂しさはいったい誰が埋めてくれるのだろう

 

いや誰でもない、自分で埋めるしかない

頭ではわかっているけれど でも無理で

 

自分の寂しさを紛らわすために、誰かの寂しさを受け止めている 見返りなんて求めてないけど、受け止めれば受け止めるほど、自分のなかの何かが欠けていく

距離感が近くなればなるほど、遠くなる きっと近くなりすぎると対象がボヤけて見えなくなるみたいな、相手の中でわたしの輪郭が消えてしまったんだろうなって悲しくなる

 

昔からずっとそう変わらないまま、変わらないことが変わっているのかもしれない

 

疲れているときにあなたに「疲れた」と言える人間になりたかった

つかれちゃったな、あーあ言っちゃったな

 

 

好きにも嫌いにもならないで

 

彼との些細な日常を思い出す

 

本当に些細なことだけど、胸がきゅっと嬉しくなったこととか、人に対して初めて「愛しいなぁ」って思えたこととか

 

わたしのことが好きだから言ってくれる言葉とか、わたしのことが大切だからしてくれる行動とか、全部が嬉しかった

 

思えばわたしの人生は大事にしてもらいたい人に、大事にされなかったことばかりだった

 

だから彼からの愛情は不器用なりにも温かくてそこが愛おしかった わたしも大切にしたいと思った

 

彼に好きになってもらえて、初めて自分のことも好きだと思えた

 

一緒に馬鹿やって笑ってる時間が何よりも楽しかった

 

なのに、あーあ

もう全部ダメになっちゃって、あの頃の気持ちも無くなっちゃって、今さら戻れないよ

 

彼は好きだって言ってくれるけど、もうそれも言わないで

 

でもやっぱり嫌いにもならないで

 

好きにも嫌いにもなれないから

だからもう

 

 

ねー