フィクションです

無頓着な善意と花

 

 

「多様性ってなんですか?」
「それはみんなが持ってる自分だけの花です」
「花、嫌いです」

 

 

わたしは18歳のときに付き合ってた一回り年上の彼氏から、花をプレゼントされたことがある。だけど、そのときは本当に花の良さがわからなくて、すぐ捨てた。そもそもわたしの家には花瓶がなかった。その後、結局その彼とは別れたんだけれど、別れるときに「花をプレゼントしたときに捨てられたのがショックだった。」と言われた。いやいや、そんなの押しつけじゃない?って思った。" 花は大切にするもの "みたいな固定観念がきっと彼にはあったんだろうし、無条件で喜んでくれると思っていたのだろう。でもこっちはそんなの頼んでないし、そもそも花なんて手間なもの要らない。百歩譲って造花ならまあいいかなって感じ。わたしがあなたの無頓着な善意を拒否したからって、文句を言わないでと思った。どんなに綺麗な花があっても、部屋に花瓶がないように、彼の好意を受け入れる器があの頃のわたしには無かった。年数を重ねた今は、ちょっとだけ悪かったなと思う。そして、たまに自分で買ったりするくらいには、花が好きだ。好きになりました、あんなに興味無かったのに。花を好きになってから、花が嫌いな人のことが理解し難くなった。あのときの彼みたいに。無意識のうちに、確かめようのない自分の中のマジョリティーを正義だと決めつけて、そうじゃない側の人間を非難する。そういう傲慢さが見え隠れする瞬間、必死で自分を戒める。そういうことをしなきゃいけなくなったなって思う、今はきっと前よりも。